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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)165号 決定 1985年8月23日

抗告人

埼玉住宅株式会社

右代表者代表取締役

山口隆久

抗告人

山口産業株式会社

右代表者代表取締役

山口修平

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりである。

抗告理由一について

抗告人らは、民事執行法五五条所定の債務者とは差押債権者に債務を負つている者と解すべきところ、本件において差押債権者である株式会社国民相互銀行に債務を負つているのは抗告人山口産業株式会社であり、同埼玉住宅株式会社は何らの債務をも負つていないから同抗告人に対する保全処分決定は違法であると主張する。しかし、強制競売の場合と異なり、本件のように、抵当権の実行としての競売である場合には、民事執行法一八八条により準用される同法五五条にいう「債務者」とは「債務者または所有者」をいうものと解するのを相当とする。けだし、強制競売の場合は債務者と差押物件の所有者とが同一人であるのに対し、抵当権の実行としての競売の場合は両者が必ずしも常に同一人ではありえないが、両者が異なる場合においては、抵当権の目的不動産の所有者こそが、実体上抵当権の実行としての競売の効果が直接及ぶ者であることに照応して、競売手続上も、差押えから換価に至る手続における相手方当事者としての地位に立つことを当然に予定されているものと解すべきだからである。すなわち、この場合、抵当不動産の所有者は、差押えによつて目的物に対する処分権限の行使を制限される一方、通常の用法に従つてこれを使用収益することは妨げられないけれども、五五条所定の価格減少行為をする、又はそのおそれがあると認められるに至つたときは、差押債権者の利益を保護するために、右所有者を相手方として同条による保全処分が発せられうることになるものというべきである(ちなみに、抵当不動産の所有者でない債務者につきその必要が認められる場合には、右債務者を相手方として保全処分を求めうることも否定されるべきではないが。)。そして、抗告人埼玉住宅株式会社が前記銀行に抵当権が設定されている原決定添付物件目録記載(1)ないし(13)の物件の所有者であることは本件記録編綴の各資料により明らかである。ゆえに、抗告理由一の主張は理由がない。

抗告理由二について

原審が本件につき昭和五九年一〇月一五日抗告人ら主張のとおり前記(1)ないし(13)の物件に対する抗告人らの占有を解いて執行官に保管を命ずる等を内容とする保全処分決定をしたことは本件記録上明らかであるが、その後原審において同月二五日民訴法四一七条一項に則り、右決定を、「抗告人らは、右物件に対し占有名義の変更、取壊し、建物の新築等その他の価額の減少をきたすような行為をしてはならない。」とする更正決定をしたこともまた本件記録上明らかであるから、当初の決定を非難するにすぎない抗告人らの抗告理由二での主張は、その意味を失つたものというべきである。

以上により、抗告人らの本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官横山 長 裁判官菅本宣太郎 裁判官加藤英継)

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